林芙美子随筆集

前の「下駄で歩いた巴里」は、前半は紀行文の体裁で非常に面白く読めたのだが、後半、日本を舞台として書かれたものが多く、奈良や京都、大阪を題材にした短篇はともかく、ほかの短篇は正直楽しめずに終ってしまった。日を置いて、もう一度読むといいかもしれない。
今度の本は随筆集である。「放浪記」は日記の体裁だったが、こちらはひとつテーマを決めて随筆が書かれている。とくに気に入ったのは「平凡な女」という小編。雑誌で知識婦人(女流知識人)の鼎談を読んでこんなことを書いているのだ。

十人十色かもしれないが、私は家族の飯ごしらえもして、洗濯から掃除もたいていじぶんでやっている。少しもわずらわしいとは思わない。といって別に愉しいとも道楽とも考えないが、何も台所や洗濯を忘れることが女の栄誉とも考えていない。

(中略)
非常にむつかしい言葉で色々と女の生活が論議されていたが、早いこといえば、自分の仕事のために女の生活が煩わしいというのである。どの世界にでも、いっそ口鬚をつけて歩いておればよいようなむつかし気な女性が一人二人はあるものだ。

なんだか、オバサンが若いキャリアウーマンに向かって説教しているようでもあるが、その通りだよなあと納得した。男は逆にこのことを分かって感謝した上でしっかり仕事をせねばならんのだろう。
ちょっと待って、神様」といい、この短篇といいい、やけにオバサンに感情移入してしまうなあ。

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