先読み

高校のときになんとなくツブシが効きそうな理系のクラスを選んで、そこから工学部、しかも情報系に進学し、これならある程度就職先も見つかるだろうと、ある意味「かしこい」選択をし続けてきたように思う。
結局コンピュータ関連の会社に勤めているのだけど、同じ会社に勤めているデザイナーの人の話を聞くと、そういうのとはまったく異なる次元でものを考えている人もいるのだということに気付かされた。
その人、Sくんは、大学時代、漆芸を専攻していたのだそうだ。漆芸って、ようするに漆(うるし)だ。ついつい「かしこい」選択をしがちな僕にはちょっと驚きである。うるしってなんだ。ぶっちゃけ、どれだけ就職の役に立つのだろうか?
理系の大学でも、理学部数学科とか理学部物理学科とかいうと、およそ就職の役に立ちそうもないだろう、ということがあたまをかすめて工学部を選んだ自分だけに、「うるし」を選ぶそのときの心境とはどんなものか?というのに非常に興味を覚えた。Sくん、どうして漆芸を選んだの?
「おもしろそうだったから」
「!!」
もともと伝統工芸に興味があって選んだのだけど、いろいろとツッコミどころが満載の業界でのめりこんでいったのだそうだ。
人が何かを選ぶときの基準って、案外そういうものなのかもしれない。自分にしたって、「就職の役に立つかも」という戦略・あるいは打算があったにせよ、もともとの選択基準は「おもしろそうだったから」のはず。将来を先読みして少し打算に流れてしまうのか、将来など考えず自分の興味に打ち込むのか。どちらがトータルで幸せなのかわからないけど、少なくとも、学生時代くらいは後者の選択で突き進んでいってもよかったのではないかなと思う。
余談。Sくんの通っていた某芸術系の大学の学生は、そのほとんどが就職うんぬんをほとんど考えたりしないらしい。家が裕福なのか、それとも才能がほとばしっているのか。Sくんと同じ大学出身の友人を見ていると、後者であると思わざるを得ない。