音響学会 (2)

音声の研究を始めてからずっとお世話になっているPさんのポスター発表があった。従来、音声を分析するというとき、音声波形からスペクトルと基本周波数(声の高さ)を抽出して、それらの局所的あるいは大域的な変化を観察するというところから始まる。スペクトルを観察すればその音がどんな音韻(母音や子音の種類)であるかがわかるし、基本周波数や音の強さ、各音韻の継続時間長(まとめて韻律と呼ぶ)を見ればどんな意図(疑問や断定など)を込めた発声であるのかがわかる。

この基本周波数は、音源となる声門の開閉する速度を示す値である。また音源となる波はサインカーブよりも三角波に近いものであると考えられてきた。しかし、声門の開くスピードと閉まるスピードは常に一定とは限らず、なにか「気張った」ような声を出せば簡単に三角波からは外れてしまう。従来は、乱暴に言えば、「音源波形は三角波で十分近似でき、その周波数のみが重要である」という考えが一般的だったのだが、これをさらに1歩進め「波形の形そのものにもっと意味があるはずで、これを詳細に分析しよう」というのがPさんの立場である(と僕は理解している)。
僕には大変興味深い内容であるのだが、いささか硬派過ぎるのかPさんのポスター前に人はまばらだった。ポスターが英語だし仕方ないのかもしれないけど。ただ、Pさんは本職の研究者なだけあり自分とは一段異なる地平を見ているのだなぁと思った。熱意と確信度とスキルにおいて、まったくかなわない。