浮雲 (4):「の」の撥音化「ン」
ともすると、プログラミング言語の解説書やウェブの記事ばかり読む生活になっているし、最近は現代小説しか読んでいないので、昔の文体・昔の表現の詰まっているこの作品は逆に新鮮だ。ウェブの記事は特に口語体で書かれていることが多くて、はじめはその柔らかな表現に心地よく浸っていられるのだが、徐々に飽きてくる。間口を広げる意味では口語体は良いのだろうけど。そういう面で、この小説は読んでいて楽しい。ちょっと古さを感じさせる新潮文庫の活字も良い味を出している。
この小説、会話の中で撥音化されている「の」が、すべて「ン」で書かれている。たとえば、「馬鹿な事を云うもンじゃない」のように。作者のスタイルなのか、この時代の人は気にかけて書き分けていたのか。どちらにせよ、口語体と文語体の書き分けを明確に意識していたことがよくわかる。いまの時代の文章は、文語体で書くべき文章をも口語体で書いてしまっているので、「の」の撥音化「ン」は消えてしまったのかもしれない。
関係ないンだけど(笑)、ABCの新番組世界プチくら!で、ヴェトナム特集が組まれていた。サイゴンが舞台で見てきた風景ばかりが放送されている。ちょっと(プチ)暮らして(くら)みるというコンセプト、良いなあ。1週間同じところに滞在し続ける、という旅のスタイルもアリだと思った。
単語
- 「悪霊」の中のスタヴローギン (p.102)
- 「悪霊」は19世紀ロシアの文豪ドストエフスキーの作品。その登場人物のひとりがスタヴローギンである。詳しくはよくわからないが、「浮雲」の作品中では、内地へ帰ってきた富岡の変化を「「悪霊」のなかのスタヴローギンのいやらしい外貌に似ている気がして気持ちが悪かった。」と形容している。スタヴローギンはそのような人物なのだろう。
(→スタヴローギンに関する考察)
(→ドストエフ好きーのページ)
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