新版 放浪記 (1)

放浪記 - Amazonへまず、時代背景がものすごい。
明治36年(1903年)に生まれ、昭和26年(1951年)に没した林芙美子の代表作が、「浮雲」であり、この「放浪記」であった。放浪記は大正11年(1922年)からの5年間を日記風につづった随筆/自叙伝である。
ぼくにはいくら想像の羽根をひろげようとも、大正11年の世界は見えてこない。すべてがぼんやりとしたイメージでしかない。そこに書かれている文章から、「大正11年」をひとつひとつ丹念に構築していくしかない。
「均一という言葉が流行っていた」時代。扇子が十銭、アンパンが一銭、メリヤスの猿股は「二十銭均一」。「一泊三十銭」の木賃宿は「三畳の部屋に豆ランプのついた、まるで明治時代にだってありはしないような部屋」である。
林芙美子は、その家族とともにかなりの貧窮を強いられていたらしくて、露天で物を売ったり、菓子工場で働いたり、玩具工場でキュービーの色塗りをしたりと職を点々としている。

「来年はお前の運勢はよかぞな、今年はお前もお父さんも八方塞がりだからね……」
 明日から、この八方塞がりはどうしてゆくつもりか! 運勢もへちまもあったものじゃない。次から次から悪運のつながりではありませんかお母さん!
 腰巻きも買いたし。

新版 放浪記(新潮文庫)p.33

貧窮の中にもユーモアは溢れている。

林芙美子「新版 放浪記」
ASIN:4101061017
青空文庫(入力中)
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