雨の花灯路

昨晩、Mと待ち合わせて東山花灯路へ行った。あいにくの雨で大丈夫かなと思っていたのだけど、四条河原町から祗園に向けて歩いていると、けっこうな人出が八坂神社に吸い込まれていった。
八坂神社から円山公園に抜け、しだれ桜の脇を曲がり、ねねの道、高台寺二年坂を通って清水寺まで。花灯路のあかりは、じっと見ていてもゆらめくようなこともなく、どうも電球のようだった。晴れていればじっくり眺められたのだろうけど、雨の中、傘の人の流れに任せてぽくぽく歩くしかなくて、残念ながらそこまでの風情はなかった。
Mと会ったのは実は2度目で、旅先で出会っただけの間柄だった。そのため多くの時間を旅のことやいままでの経歴?を話すことに費やされた。Mは珍しい経歴の持ち主で、地方で公務員として働いていたがとあることで折り合いが悪くなり、辞めることになった。その後京都にやってきて仕事をしていたのだけど、それも去年の春に辞め、趣味と実益を兼ねた学校に通い始め、時間を見つけて旅をしてきたのだと言う。
「仕事を辞めようと思ったことある?」── そう聞かれたのだけど、まだない。「もう仕事やだ!」と思うことは多々あれど、社会人になって3年にも満たないし、そこまで強烈な不満もない。逆に入院中に「入院が長引いてクビになったらどうしよう」と不安になったくらいだ。Mのように特別な免許を持っていたり、ウチの会社のKやTのように特別な技能を持っているわけじゃないので、今の僕にとっては文字通りの命綱、あるいはアイデンティティの拠り所にさえなっているから。「3年経つと色んなものが見えて来るよ」とどこかで聞いたようなセリフをMは口にした。よく聞くセリフということはそれなりに真実を射抜いているのかもしれない。
4月から本格的に仕事に復帰するそうなのだけど、実はMにはカフェをしたいという強い夢があるのだという。そのためカフェやパン屋さんで実務を積んで開業につなげたいと言っていたが、今の仕事との給与の隔たりが大きく、カフェやパン屋では食っていけないので悩んでいる。開店資金も必要なわりに、すぐに旅に出てしまうのでなかなかお金がたまらないと笑っていた。自分はカフェにもパンにも造詣が深くないけれど、身ひとつで動こうとしている人を見ていると新鮮な気分になれた。静かに見守っていきたいと思う。
旅の話では、パキスタンアフガニスタンの国境の街・ペシャワールのババじぃの話が面白かった。ペシャワールのババじぃというと日本人旅行者の間では有名なジジイらしくて、超キケンなエリアや、アフガン人が集まるバザール、銃工場などに連れて行ってくれるツアーの主催者なのだそうだ。ただ、彼はとくに店を構えているというわけではなく、とあるカフェで休憩していると使いの小僧さんが現れ、それについていくとババじぃに会うことができる、というシステムらしい。しかし最近はババじぃに対抗してプリンスというやつが出現しているらしく、彼らの客取り合戦が続いているのだそうだ(プリンスは噴水の近くにいるらしい)。
Mは日本人宿の何人かと連れ立ってババじぃのツアーに参加したところ、実際に「超キケンなエリア」や、アフガンバザール、銃工場に連れて行ってもらえたらしい。エリアでは、ボールペン型の銃があり、分解すると実際に銃弾が出てきたそう。クリップのところをいじると実際に発射するらしいのだけど、そんななにげない見かけのボールペン型ピストルがそこらに転がっていているのだそうだ。銃工場では1発200円くらいで撃たせてくれたりもするらしい。
パキスタンは食事があんまりだったそうだけど、チャイがポットで出てくるらしい。イランはゴハンが美味しいし、トルコはバスのサービスが最高なのだそうだ。ちょっと恐ろしげなところもあるババじぃツアーを含め、いつかはこのルートで旅してみたいなあと思ってしまった。Mのカフェ計画と比べればたいしたことではないけれど、これはこれで僕の夢の ToDo リストに載っけておきたいと思う。
スノーマンカフェのオトコマエ店員さん帰り際、Mからマドレーヌの親分のようなケーキをもらった。日曜になってからいただいたのだけど、甘さ控え目でしっとりしていて美味しい。思い返せば、カトマンドゥでは3日連続でスノーマンカフェに通い詰めた自分だった。Mも将来あんなカッコイイカフェが作れたらいいのになと思った。